2021.10.04

発注者が知っておきたい請負契約と準委任契約の違いとは?

アウトソーシングが一般化したことで、専門分野における業務の品質確保や社内のリソース最適化のために外部に委託するケースが増えています。なかでもシステムなどの開発案件は、外部に委託する事例も多くみられます。

その際に発注者は依頼先との間に、依頼内容についてお互いが合意したことを示す「業務委託契約」を締結します。また業務委託契約には、「請負契約」と「準委託契約」の2種類があります。

本記事では発注者や受注者が押さえておくべき、請負契約と準委任契約の違いについて詳しく解説します。両者間で契約内容に相違によってトラブルにならないようにも、「請負契約」と「準委託契約」、2種類の業務委託契約について押さえましょう。

この記事のポイント!
  • 業務委託契約には2種類ある
  • 請負契約は成果物に対して報酬が支払われ、納品後は修正義務が発生する場合があり、発注者は工程にほぼ関与しない
  • 準委任契約は作業行為と労働期間に対して報酬が支払われ、完了後の修正義務はなく、中長期的なプロジェクトを発注側も協働して遂行する
  • 単発的に成果物だけを求める場合は請負契約、中長期的に協働してプロジェクトを遂行する場合には準委任契約となる

はじめに 企業が開発を業務委託する理由とは

近年はデータ分析の需要増加やプライバシー保護強化の取り組みが、年々活発化しています。それによりデータ領域を中心にエンジニア不足が、ますます深刻化しているのが現状です。

そこで専門分野における業務の品質確保や、社内のエンジニア不足の解消、社内のリソースの最適化などを目的に、開発業務をアウトソーシングする事例が増えています。一括りに開発業務のアウトソーシングと言っても、業務委託先はさまざま。実際に受託をメインとする開発業者はもちろん、個人で活動するフリーランスなど多種多様です。

業務委託契約は「請負契約」と「準委任契約」の2種類

企業が開発業務を外部に委託する際は、主に業務委託契約を締結します。また業務委託契約は「請負契約」と「準委任契約」の2種類に分かれます。

つまり一括りに業務委託契約といっても、実際の契約形態は2つあるため、それぞれの契約内容における特徴やメリット・デメリットなども異なります。そのため契約後や納品後などにおいてトラブルにならないよう、請負契約と準委任契約の内容について理解しておくことが重要です。

請負契約とは

まずは業務委託契約における1種類目、請負契約についてご紹介します。また請負契約の特徴を踏まえて、メリット・デメリットをみていきます。

請負契約の特徴

請負契約とは、成果物を完成させる義務(完成責任)があり、作業結果を納品し検収が完了したのちに報酬が支払われる契約形態です。成果物を完成させる責任があるため、いくら工数をかけたとしても、成果物が完成しなければ報酬は支払われません。

また契約不適合責任も課されているため、納品物に不備や指摘があれば修正する義務があります。また契約不適合責任とは、売買契約において商品に品質不良や品物違い、数量不足などの不備があった場合、売主が買主に対して負う責任のことです。契約不適合責任における修正義務の有効期間は、一般的に納品から6ヶ月〜1年ほどで設定されるケースが多い傾向にあります。

そして請負契約では、納品までの各工程が終われば次の段階に進み、基本的に前の工程には戻りません。これを「ウォーターフォール・モデル」といい、開発業務は基本的に、このモデルで進められることが多い傾向にあります。また発注側は、作業に対する指揮命令権がない点が大きな特徴です。

請負契約のメリット

請負契約は、成果物に対して報酬が支払われる業務委託契約です。そのため開発者に対して、納期・品質の担保責任が高く定められている点が最大のメリットです。

納期までに成果物がなければ報酬が支払われないだけでなく、契約不適合責任が課されていることから納品物に対する修正義務も発生します。よって成果物の確実な納品と品質を重視する場合は、発注側にメリットがあります。

請負契約のデメリット

請負契約は、発注者に指揮命令権がない中で成果物を求めることから、発注時に要件定義を提示する必要があります。成果物の要件定義は決まっていても、発注者はそのプロセスに関与しないため、発注側と開発者は短期的な連携しかできません。

さらに最初に提示した要件定義から仕様変更が必要となる場合には、発注側は追加費用が発生するケースもある点を押さえておきましょう。この場合、予算オーバーする可能性もあることから、請負契約におけるデメリットといえます。

準委任契約とは

次に業務委託契約における2種類目、準委任契約についてご紹介します。また準委任契約の特徴を踏まえて、メリット・デメリットをみていきます。

準委任契約の特徴

準委任契約とは、発注者に依頼された行為とその労働期間に対して報酬が支払われる契約形態です。行為と期間に対する報酬であることから、完成義務がない点が請負契約との大きな違いであり特徴です。

さらに契約不適合責任がないため、開発者が修正義務を負うことはありません。また発注側に作業に対する指揮命令権がない点は請負契約と同じです。しかし準委任契約では、仕様変更があることを前提に工程を進めていく、「アジャイル・モデル」で実施される場合が多い傾向にあります。

準委任契約のメリット

準委任契約は、要件定義が明確でない中で中長期的なプロジェクトになることから、仕様変更に柔軟に対応でき開発体制を調整することも可能です。

また中長期で連携することから、開発者もお客さまのシステムを習熟でき、理解を深めながら業務を進められます。また優秀な人材を中長期間確保できる点も、準委任契約のメリットといえます。

準委任契約のデメリット

準委任契約は、発注側が開発者とコミュニケーションをとり、仕様の明確化や進捗の確認など、完了までの工程に関わる必要があります。そのためコミュニケーション不足になることなく連携してプロジェクトが遂行できます。一方で発注側のコミュニケーションのおけるリソースを、割かなければいけない点はデメリットといえます。

請負契約と準委任契約の違い

請負契約と準委任契約は、どちらも「自社ではリソース的にできない」「委託した方がスピーディに業務を進められる」「他社に委託した方が効率的だ」などの理由で、外部に業務を委託するための契約です。そのため目的としてほとんど同様ですが、以下の違いを押さえておきましょう。

請負契約契約で決められた納期・工数で依頼されたプロジェクトを完成させるため、プロジェクトの制作全てを委託し、発注側が開発の工程に関わることは原則的にない
準委任契約一定期間専属チームとして人材を確保し、共同で開発業務を進める

つまり業務全てを委託するか、共同で開発を進めるかの違いです。コミュニケーション不足の課題を避け安定的な開発を求める際には、準委任契約がおすすめできる方法です。

しかし時と場合によっては請負契約が良い場合もあります。以下で請負契約と準委任契約の使い分けについて解説します。

開発業務における請負契約と準委任契約の使い分け

システムの仕様や納期などが明確になっており、開発までの工程を全て委託したい場合は、成果物に対して報酬を支払う請負契約が選ばれる傾向にあります。また単発的な発注の場合も、請負契約となるケースが多いでしょう。

この場合、発注側は開発の工程には関わらず、納期までに納品されるのを待って検収するだけで済みます。そのため発注側は、開発におけるリソースをほぼカットできます。

一方、システムを開発する予定はあるものの、その内容や仕様などが定まっておらず、開発者と協働して進めていきたい場合もあるでしょう。その場合はコミュニケーションを取り合える準委任契約が良いでしょう。

準委任契約の場合、発注側は作業に対する指示は出せませんが、開発者は発注側の開発体制や細かい作業内容の要望のもと遂行する必要があります。そのため業務における認識の相違が起こりにくいといえます。また中長期的なプロジェクトとなるため優秀な開発者と契約できれば、一定期間優秀な人材を契約に基づき確保できます。

つまり「単発的にシステムを納期までに完成させる」ことを重視する場合は請負契約、「要件定義など、システムの内容をすり合わせながら中長期的に開発を進めていきたい」場合は準委任契約が推奨されます。

まとめ 取引実務上は請負契約と準委任契約が混同されるケースがあるので注意

取引実務場では、請負契約も準委任契約も一括りに「業務委託契約」と呼ばれるため、細かい契約内容に混同が生じやすいのも実情です。トラブル回避のためにも両契約の特徴やメリット・デメリットを押さえておくことが重要です。

また発注側も依頼側もお互いが契約の認識に相違なく納得した形でプロジェクトを完了できるようするためにも、ぜひこの機会に押さえておきましょう。


執筆者

中川路 寛
KAN NAKAKAWAJI

セールス&マーケチーム所属。 オフショア開発事業のセールスとブログ執筆などのマーケ施策を担当。

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